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節税保険を規制する法人税通達が公表されました

2019年07月08日

名古屋市緑区の税理士 米津晋次です。

過剰な節税効果をうたった法人契約の保険商品が問題になっていましたが、国税庁は、2019年6月28日に「改正法人税基本通達」等を公表しました。

過剰な解約返戻率を設定した定期保険等及び短期払のがん保険等の節税効果をうたった保険商品の損金算入額に一定の歯止めがかけられました。

最高解約返戻率50%超の定期保険等については、2019年7月8日以後の契約分から、短期払のがん保険等については、2019年10月8日以後の契約分から適用され、それ以前の契約については遡及はされません。



過剰な解約返戻率の定期保険等


今回の改正では、長期平準定期保険等の取扱いを定める個別通達が廃止され、新たに「定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い」(法人税基本通達9−3−5の2)等が新設されます。

◆長期平準定期保険等とは


長期平準定期保険とは、定期保険の中でもたとえば満期が100歳というような特に長期の保険期間を設定するものを言います。
一定期間は、解約返戻金があるため、法人の節税目的でよく利用されてきました。

◆従来の通達による扱い


(1)保険期間満了の時における被保険者の年齢が70歳を超え、かつ、当該保険に加入した時における被保険者の年齢に保険期間の2倍に相当する数を加えた数が105以下


・全額損金算入(保険期間の経過に応じて損金算入します。)

(2)保険期間満了の時における被保険者の年齢が70歳を超え、かつ、当該保険に加入した時における被保険者の年齢に保険期間の2倍に相当する数を加えた数が105超


・50%損金算入、50%資産計上
・資産計上期間:保険険期間の開始から保険期間の60%に相当する期間
・取崩期間:保険険期間の開始から保険期間の60%に相当する期間経過後から保険期間終了日まで


◆改正通達


(1)一定の解約返戻金なしの定期保険等


保険期間を通じて解約返戻金のない定期保険等は、保険期間の経過に応じて損金算入します。

(2)保険期間が3年未満のものや最高解約返戻率70%以下かつ年換算保険料相当額が30万円以下の定期保険等


次の定期保険等の保険料については、保険期間の経過に応じて損金算入します。
・保険期間が3年未満の定期保険等
・最高解約返戻率70%以下かつ年換算保険料相当額が30万円以下の定期保険等


(3)最高解約返戻率50%超の定期保険等


最高解約返戻率が50%を超える定期保険等については、最高解約返戻率によって3区分に分け、それぞれ保険料の一部を資産計上することになります。

ア.最高解約返戻率50%超70%以下
・経理:60%損金算入、40%資産計上
・資産計上期間:保険期間の前半4割相当の期間
・取崩期間:保険期間の7.5割経過後から保険期間終了日まで取崩期間

イ.最高解約返戻率70%超85%以下
・経理:40%損金算入、60%資産計上
・資産計上期間:保険期間の前半4割相当の期間
・取崩期間:保険期間の7.5割経過後から保険期間終了日まで

ウ.最高解約返戻率85%超
・経理:10年経過日まで:10%損金算入、90%資産計上
    10年経過日以後:30%損金算入、70%資産計上
・資産計上期間:保険期間開始日から最高解約返戻率となる期間の終了日
・取崩期間:解約返戻金が最高額となる期間等の経過後から保険期間終了日まで(注)

(注)最高解約返戻率となる期間経過後の各期間において,その期間の解約返戻金からその直前の期間の解約返戻金を控除した金額を年換算保険料相当額で除した割合が70%を超える期間がある場合には,その超えることとなる期間


短期払のがん保険等


◆短期払いのがん保険等とは


「短期払のがん保険等」とは,保険期間が終身でありながら、保険料の払込期間が短期の保険商品のことです。

◆従来通達のメリット


短期払のがん保険等のメリットとしては、主に2つありました。

通達の定めはありませんでしたが、がん保険以外の第三分野保険も同様に取り扱われる実態がありました。

支払い保険料全額損金算入


ひとつは、支払い保険料の全額を損金算入できたことです。
終身という長い期間分の保険料を短期で支払う場合、本来なら、保険期間の経過するごとに損金算入すべきですね。

改正前のがん保険に係る税務上の取扱いは,保険料の一部を資産計上等することになっていましたが、「例外的取扱い」として、「短期払のがん保険等」の保険料については、支払の都度、損金算入が認められていました。


個人に名義変更することで個人が保険料の負担なしで保障を獲得


2つめのメリットは、払込期間の終了後に,法人から個人に名義変更する場合に、名義変更時の解約返戻金相当額のみ負担するだけで、個人が保険料等を負担せずに済んだことです。

つまり、保険料は会社負担、保障を個人が受けられるようになっていたということです。

◆今回の改正による歯止め


今回の改正では、「例外的取扱い」を定めていた個別通達を廃止し,新たに「解約返戻金のない短期払の定期保険又は第三分野保険」の取扱いが設けられました。

(1)年間支払保険料30万円以下の場合


今回の改正通達では、「解約返戻金のない短期払の定期保険又は第三分野保険」の保険料について、年間の支払保険料30万円以下を要件に、支払日の属する事業年度での損金算入を認めています。

(2)年間支払保険料30万円超の場合


一方、年間の支払保険料が30万円を超える「短期払のがん保険等」については、税務上は,保険期間の経過に応じて保険料を損金算入する必要があることになりました。

なお、終身の第三分野保険は,「保険期間開始日から被保険者の年齢が116歳に達する日まで」を保険期間とみなします。

◆改正後の具体例



(1)当初3年間の年間支払い保険料が20万円(総支払保険料60万円)の場合


・支払いの都度、20万円ずつ損金算入

(2)66歳時に、当初3年間の年間支払い保険料が120万円(総支払保険料360万円)の場合



・116歳までの年数:116歳−66歳=50年=600月
・保険料支払時に「前払保険料」として経理。
・各月ごとに360万円÷600月=6,000円ずつ損金算入(「前払保険料」を取り崩す)


まとめ


今回の通達改正により、あまりにも行き過ぎた節税型保険について、ある程度の歯止めがかかりました。
納得できる改正です。

2019年7月8日以降の最高解約返戻率50%超の定期保険等の契約や、2019年10月8日以降の短期払のがん保険等の契約については、必ず改正通達に従って経理しましょう。








【投稿者:税理士 米津晋次
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