《コラム》ビニールハウスの固定資産税課税もれ

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ある市では、農業用ビニールハウスの固定資産税で申告漏れが多くあり、今年度分から過去5年間分をさかのぼって調査、課税していく方針を示したと報道がありました。


農業用ビニールハウスに固定資産税がかかるの?

なぜ農業用ビニールハウスに固定資産税がかかるのか、と思う方も多いはずです。
固定資産税といえば、土地や家屋にかかるものだという認識だと思います。
確かに、問題になったビニールハウスは、家屋ではありません。
ビニールハウス

固定資産税(償却資産税)

しかし、農業を含む個人事業者や会社が所有する減価償却資産にも、固定資産税の一種の償却資産税が課税されることになっているのです。

しかも、土地や家屋のように、市町村が税額を計算して通知書を送付してくるのではありません。
毎年1月末日までに、1月1日現在所有している償却資産の申告を市町村役場にする必要があります。
所得税と同じように、償却資産税も申告納税制度をとっているのです。

私は、創業者向けのセミナーをする機会が多いのですが、毎回必ず、この償却資産税の申告のことを話します。

あまりに知らない人が多いからです。

取得価額が10万円以上で長く使えるものは、所得税や法人税では、購入時に全額必要経費にすることはできず、減価償却資産に計上するルールとなっています。

償却資産税では、若干の違いはあるものの、固定資産税がかかっている家屋や自動車税が課税されている車両以外の減価償却資産に課税することとなっています。


農業に関係するものでは、農機具(田植え機や稲刈り機、耕運機、脱穀機、コンバイン、トラクターなど)、ビニールハウス(温室)、ネット、フェンス、給排水設備、井戸などが課税対象となります。
田植え機

ただし、乗用装置のあるトラクター、コンバイン、田植機などの農作業用自動車でナンバーを取得して公道を走ることができ軽自動車税の課税対象となるものは、償却資産の対象外となります。

なお、所得税・法人税では減価償却資産となる生物(牛・馬・鶏・果樹等)やソフトウェアなどの無形固定資産は、償却資産の対象外です。

業種別のおもな償却資産

業種名主な償却資産
各業種に共通駐車場設備、受変電設備、舗装路面、庭園、門、塀、外構、外灯、ネオンサイン、広告塔、中央監視制御装置、LAN配線、看板、簡易間仕切、応接セット、ロッカー、キャビネット、エアコン、パソコン、コピー機、レジスター、金庫、太陽光発電設備(屋根材一体型を除く)等
農業田植機、稲刈機、脱穀機、コンバイン・トラクター等の大型特殊自動車等
(ナンバーを取得して公道を走れるため軽自動車税の対象となっているものは除く)
製造業旋盤、ボール盤、プレス機、看板、金型、洗浄給水設備、溶接機、貯水設備、福利厚生設備等
建設業ブロックゲージ、トランスショッパー、ポンプ、ポータブル発電機、ブルドーザー、パワーショベル、コンクリートカッター、ミキサー等
印刷業各種印刷機、活字盤鋳造機、裁断機等
小売業商品陳列ケース、陳列棚、陳列台、自動販売機、冷蔵庫、冷凍庫等
飲食業接客用家具・備品、自動販売機、自動食器洗浄器、厨房設備、カラオケセット、テレビ、放送設備、冷蔵庫、冷凍庫等
自動車整備業プレス、スチームクリーナー、オートリフト、テスター、オイルチェンジャー、充電器、コンプレッサー、卓上ボール盤、ジャッキ、溶接機等
ガソリン販売業洗車機、地下槽、ガソリン計量器、地下タンク、スポットライト、投光器、自動販売機、独立キャノピー等
理容業、美容業理・美容椅子、洗面設備、タオル蒸器、テレビ等
クリーニング業洗濯機、脱水機、乾燥機、プレス、ミシン等
医療業各種医療機器(ベッド、手術台、X線装置、分娩台、心電計、電気血圧計、保育器、脳波測定器、CTスキャン)、医療ガス設備、各種キャビネット等
不動産賃貸業駐車場舗装、看板、門、塀、外灯、緑化設備(植木等)、フェンス、側溝、電力引込線、屋外給排水管、屋外ガス管、自転車置場、近隣の電波障害対策用アンテナ、ルームエアコン、集合郵便受け、宅配ボックス等
駐車場業柵、照明等の電気設備、駐車装置(機械設備、ターンテーブル)等
娯楽業パチンコ台、パチスロ台、島設備、ゲームマシーン、両替機、玉貸機、玉計数機、カラオケセット、接客用家具、ネオンサイン、スポットライト等

固定資産税(償却資産税)と所得税・法人税との取扱いとの比較



<出典:名古屋市>



ビニールハウスの申告はたった4件だった

償却資産税の課税もれは、よくあるのですが、この市では驚くことに、ビニールハウスの申告がたった4件だったことです。

市内を車で走るだけで、ビニールハウスが少なくても何十件も目に入るはずです。
申告があまりに少ないと気づかなかったとでもいうのでしょうか。

報道によると申告すべきビニールハウスは2000件もあるそうです。

とすると、申告率は、4件÷2000件=0.2%

笑ってしまう数字です。

税率は1.4%ですが、一体過去いくらぐらいの税収が無駄になってしまったのでしょうか。

市職員の怠慢と言わざるを得ないのですが、上司とか、監査とかでも本当にわからなかったのでしょうか。


歴代の職員の誰も気づかなかったというのも、あまりにもおかしいですね。

わかっていたけど、表に出さなかったのでは、という疑いも持ってしまいます。


真面目に申告していた人がバカを見た

もっと問題は、真面目に申告していた人がバカを見ていることです。

今回の課税もれで申告納税していなかった人も、5年前までしか遡って課税されないようです。

ずっと昔から真面目に申告していた人だけが償却資産税を負担し、申告していなかった人は、税金を払わなくて済むことになります。

こんなことがあると、きちんと申告していた人はバカらしくなって申告納税する気がなくなってしまいます。


税金の基本は、公平であることなのです。


課税もれを防ぐ工夫はあるはず

確かに、そもそも償却資産の申告をしなくてはならないことを知らない人もいます。

でも、課税もれを防ぐ方法は、いろいろとあるはずです。

ある市町村では、納税者に所得税や法人税申告の減価償却費明細を提出させたり、中には税務署から直接減価償却明細を入手し、チェックしています。


所得税や法人税の減価償却資産と償却資産税の課税対象はかなり一致しますので、このような方法をとれば、課税をもれをかなり防ぐことができますね。

ビニールハウスにような大きなもので外にあるものだったら、インターネットのグーグルアースで、ビニールハウスらしきものを見つけ、実際に現地へいって確認するだけで多くの課税もれがわかるはずです。

真面目に申告する人がバカを見ないように、課税もれは厳しくチェックしてほしいものです。


償却資産税の課税が産業の振興に影響が大きいなら別の施策をすべき

たとえば、農家の償却資産税の負担が大きく、農業の振興面で問題があるという市側の判断であれば、まずは償却資産税については申告している人としていない人の不公平がないようにしっかり申告のチェックをして税を徴収した上で、たとえば補助金として農家の方へ返すといったような別の施策をすべきではないでしょうか。

聞くところによると、全国の多くの市町村で同じように償却資産税の課税もれが発生しているようです。

この報道のあった市町村では、その後、償却資産税を5年分徴収したうえで、農業振興上農家の負担が大きいということで、4年分相当額を農家へ戻したそうです。(具体的にどんな形からは伺っておりませんが)

償却資産税の課税もれがあれば、納税者の不公平だけでなく、市町村間の不公平ということにもなります。
償却資産税のゆるい市町村へ移ろうと考える農家も出てくるかもしれません。

課税問題と産業振興策の両方を、全国の市町村でしっかりしてほしいと思います。


【投稿者:税理士 米津晋次