平成23年度税制改正大綱に関する社説(毎日新聞)
社説:税制改正 もう継ぎはぎは限界だ
時代にそぐわなくなった税制を見直し、本当に支援を必要としている人たちに恩恵が行き渡る仕組みに変える。若い世代が将来に希望を持って働き、安心して子どもを育てられる社会にする--。政権交代を通じて民主党が実現したかったのはそういう改革ではなかったのか。
すったもんだの末に政府の来年度税制改正案がまとまった。だが、目標としていたはずの姿に近づいたとは言い難い。子ども手当は当初の計画を大幅に縮小する一方、法人税率の5%引き下げは財源後回しで貫くなど、企業重視の内容となった。
◇司令塔不在
ちぐはぐさも露呈した。国の役割が重くなる社会保障の強化を唱えながら、民間部門の活力をより重視することを意味する法人税減税を実施する。「大きな政府」に向かおうとしているのか、「小さな政府」を志向しているのか、民主党の目指すものが、よく分からない。
なぜそうなったのか。
税制改正の過程を通じて鮮明になった問題点がいくつかある。まず、意思決定の仕組みを強化することなく、つまり、強い司令塔が不在のまま、調整を各省庁に委ねたことだ。これでは理念上、整合性のとれた税制など期待しようがない。
政府と与党との調整もうまくいかなかった。「政治主導」の鳴り物入りで誕生した政府税制調査会だったが、特定業種などを税制上優遇する租税特別措置や所得税の配偶者控除の縮減といった事実上の増税案は民主党がことごとく反対。結局、減税や優遇税制の継続は政治主導で決め、納税者の負担増となる変更は先送りか最小限にとどめる“逃げ”の姿勢に終始した感が否めない。
株式の配当や譲渡益にかかる税率を時限的に低くしている優遇措置の延長も、抜本的な改革に手を付けることなく惰性で継続を決めたとしか言いようがない。証券投資による所得を特別扱いし、本来20%である税率を10%にする根拠は何なのか。本当に10%とすべきなら、なぜ恒久化せず2年の延長なのか。納得できる説明を求めたい。
税制改正の中には、前進と呼べる部分もある。相続税を増税とする一方で、贈与税について生前贈与の優遇措置対象に孫を加え、より若い世代に所得が移転しやすい仕組みに変えることが代表例に挙げられよう。
23~69歳の被扶養者を持つ世帯主を対象とした成年扶養控除で、対象となるための条件として所得の上限を設置したのも方向性は正しい。働く意欲があるのに職を得ていない被扶養者については、雇用政策で直接、本人を支援し、就労できるよう促すのが筋だからだ。
ただ、低所得者より高所得者に恩恵が偏りがちな控除は廃止し、子ども手当のように直接、給付する制度に切り替えるのは、民主党が政権公約で約束していたことだ。その意味で、配偶者控除の見直しに手を付けられなかったのは、明らかに約束違反であり、来春の統一地方選など選挙を意識した目先の思惑優先と言わざるを得ない。
年度ごとの帳尻合わせがもはや限界にあることが、かつてなく鮮明になった。これまで予算の帳尻合わせに使ってきた埋蔵金は底をつき、もうあてにできない。一方で、間もなく団塊世代がすべて高齢者となり、年金や医療にかかる歳出は加速度的に増加する。消費税の引き上げを含む税の抜本改革は待ったなしだ。
◇危機感の共有を
政府は、来年半ばまでに、改革の具体案を作ることを決めた。国民に求めることになる負担増の規模は、今回の税制改正でもめた増税の比ではない。しかも時間は半年ほどと限られている。配偶者控除に所得制限を設けることすら決められなかった現政権が果たして実行できるのか、疑問だ。
菅直人首相はかつて、財政再建を急がなければ「日本もギリシャのようになる」と強い危機感を訴えていた。消費税引き上げにも直接、言及した。しかし、参院選で大敗して以来、増税の必要性を熱く語る姿を見ることはない。
政府は今後野党にも協議を呼びかけていくというが、まずは首相の主導のもと、政権が危機意識と改革への強い熱意を共有し、結束することが最優先である。さらに欠かせないのは、世論の支持だ。政府・与党としての改革案を作成するのに並行し、国民に財政の現状と先行きを正直に、分かりやすく説明する作業を忍耐強く続ける必要がある。
国と地方を合わせた長期債務の残高が国内総生産の180%に当たるような先進国はほかにない。それにもかかわらず、国債価格が安定しているのは、国内に潤沢な金融資産があることに加え、消費税の引き上げ余地が大きいことがある。しかし、借金が膨らむ一方で金融資産の縮小は続く。増税の余地があるとはいえ、政治に実行する意思がないと市場参加者が判断したらどうなるだろう。
財政破綻危機にみまわれてから実施する対策がいかに激痛を伴うかはギリシャなどの例が示している。そうならないよう、今のうちから英断を下すのが与党、野党にかかわりなく政治家が果たすべき責任だ。
(2010年12月17日)
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