《コラム》消費税率引上げ再延期の影響(税金や補助金)

column こんにちは。名古屋市緑区の税理士 米津晋次です。 安倍首相は、平成28年6月1日の記者会見で「世界経済の下振れリスクに備える」ため消費税率10%への引上げ時期を平成29年4月1日から平成31年10月1日へ2年半再延期することを表明しました。 当初は、平成27年10月1日に消費税10%へ引上げる予定でしたから、実に4年見送られたことになります。 この消費税率10%への引上げ再延期は、引上げ分を財源としてた社会保障の充実や基礎的財政収支の黒字化達成の目標達成を困難にするなど、さまざまな影響が予想されます。 今回は、税金面を中心に企業実務への影響のある点についてまとめてみます。

Ⅰ、税制への影響

◆消費税率引上げ再延期で影響を受ける税制

消費税率引上げ再延期は、いくつかの税制にも影響を与えることになります。 これらは、消費税増税を前提にした税制や消費税増税前の駆け込み需要の反動減対策として実施予定している税制だからです。

◆軽減税率の導入

安倍首相は、6月1日の記者会見で「平成31年10月の消費税率10%への引き上げの際に、軽減税率を導入いたします」と宣言しています。 軽減税率は自民党内で反対する声も多いようですが、7月10日の参議院選挙で自民党が単独で過半数の議席確保ができなかったことや、憲法改正へ3分の2の賛成を確保するには、軽減税率導入を主張する連立与党の公明党の言い分を通さざるを得ない状況となっています。 また、政府は軽減税率について「消費税が軽減されていることが実感しやすく、税率引上げによる消費の落ち込みをある定程度防ぐ効果がある」と説明しており、事業者にレジの改修や会計システムの変更などの対応を既に求めているため、もし軽減税率導入を白紙に戻せば混乱が起きるという問題もあります。 このことから、次回の消費税率10%引上げの際には、酒類・外食を除く飲食料品や新聞の定期購読料の税率を8%に据え置く仕組みは変えず、軽減税率が導入される可能性はかなり高いと思われます。

◆インボイス制度の導入

軽減税率が導入されるとして、軽減税率の導入に伴い導入される予定だったインボイス制度がどうなるのか、ということが問題になります。 平成29年4月から消費税率引上げになった場合には、4年間の経過措置をおいて平成33年4月にインボイス制度をスタートする予定でした。 6月1日の会見で明らかにされたのは、消費税率の引上げ時期の再延期と、その引上げ時に軽減税率を導入することにとどまっており、インボイス制度のスタートも2年半延期されるのか、当初予定の33年4月から実施されるのか、今のところ不明確な状況になっています。 ただ、インボイス制度の周知には充分な期間があるとの見方から、延期せず計画通り平成33年4月から実行される可能性もあります。

◆免税事業者の経過措置

インボイス制度が導入されると、適格請求書(インボイス)を発行できない免税事業者からの課税仕入れについては仕入れ税額控除ができず免税事業者が取引から排除されやすい問題が発生します。 そこでインボイス制度導入後3年間は仕入税額相当の80%控除、その後の3年間は50%控除を認める経過措置が設けられる予定でした。 この免税事業者への経過措置のスケジュールがどうなるのかも不明確です。 この経過措置は、インボイス制度導入時期がどうなるかによって延長されのかされないのかが決まると思われます。

◆税抜価格の表示

本来は価格表示は総額表示が義務になっていますが、消費税特別転嫁対策特別措置法により、消費者が商品等を選択する際に明瞭に認識できる方法により表示すれば、総額表示をしなくても税抜表示が認められています。 同法の適用期限は、平成30年9月となっています。 消費税特別転嫁対策特別措置法については、同法の趣旨から考えると延長されるのは間違いないでしょう。

◆自動車取得税の廃止

平成28年度税制改正大綱で、「税の二重取り」として批判の強かった自動車取得税を、平成29年4月の消費税率引上げ時に廃止することを盛り込んでいました。 消費税8%への引上げ時に従前の5%から3%へ引下げられ、消費税10%への引上げ時には廃止される方向でした。 自動車取得税の改正は、消費税の動向に合わせてスケジューリングされ、前回の消費税率引上げ延期の際には3%の適用期限の廃止も平成29年4月に延期された経緯から、自動車取得税の廃止も延期される可能性が大きいでしょう。

◆住宅ローン減税

住宅ローン残高に応じて所得税が控除される住宅ローン控除は、消費税率引上げ後の反動減を考慮して、平成31年6月まで優遇幅が大きくなっています。 当初の適用期限は平成29年末までとされていましたが、前回の消費税率引上げ延期を受けて平成31年6月末までに延長されていることやその趣旨を考えると、消費税率引上げが延期されたことによりこの制度の終了期間も延長される可能性が高いと思われます。

◆住宅取得等資金の贈与税の非課税措置

祖父母らが子や孫に住宅購入資金を援助した場合の贈与税の非課税措置も、住宅ローン減税と同様に、消費税率引上げ後の反動減を考慮して設けられた措置です。 平成28年10月から平成29年9月までの贈与税の非課税枠については1,800万円の上乗せが予定されていました。 今回の増税延期で、まずこの上乗せ措置は当面なくなるでしょう。 また、消費税率引上げが2年半延期されると、この優遇措置の対象となる時期も後ろへ同じ期間スライドされる可能性が高いでしょう。

◆地方法人税率の改正

平成29年4月1日以後に開始する事業年度から財源の偏在是正のため地方法人税の税率を現行の4.4%から10.3%に引き上げられる予定となっています。 しかし、この制度は、消費税増税を前提としているため、先送りが予想されます。

◆消費税の経過措置

消費税は原則として引渡し時の税率が適用されるものですが、税率引上げ日以後の資産譲渡等のうち指定日前までに締結した契約にもとづいて増税後に引渡しを受けた場合には、旧税率が適用になるいう経過措置が設けられています。 当初の消費税率10%への引上げが平成27年10月1日のときに、これに対応する指定日は半年前の同年4月1日でした。引上げ時期が平成29年4月1日に延期されたことにより、指定日も平成28年10月1日に延期されています。 とすれば、今回の消費税率引上げ再延期を受け、指定日についても再延期が行われることになるでしょう。 特に、工事の請負契約は金額も大きく関連する事業者も多いため、再延期は影響が出るでしょう。

Ⅱ、税制以外の影響

◆軽減税率対策補助金

「軽減税率対策補助金」も消費増税を見据えた政策です。 10%への消費税率引上げと同時に軽減税率がスタートするとされていましたので、小売店を中心に複数税率対応レジの導入や受発注システムの改修を余儀なくされることになっていました。 そこで、中小企業や小規模事業者がレジの導入などを行う場合のフォローとして、経費の3分の2を補助する「軽減税率対策補助金」制度が設けられています。 この補助金は、軽減税率がスタートする前日の平成29年3月31日までに対象設備を導入または改修等したものが対象で、申請受付は平成29年5月31日までとされていました。 再延期が決まってもこの補助金の受付は継続されています。従来の平成29年3月31日の設備導入期限は延長されるでしょう。

◆駆け込み需要を期待していた業界

消費税率引上げ前の駆け込み需要が期待されていた業界がありました。主なところでは自動車、住宅、家電販売の3業種です。 消費税率引上げが先送りされると、その前に出てくる駆け込み需要も先送りされてしまいます。 先ほどの3業種に関係する業界では、2016年度の販売見通し、業績見通しの数字に駆け込み需要を織り込んでいたところがあり、これから予想数字の下方修正など対応に迫られることになるでしょう。 ただ、需要の先食いが消えれば、反動減を覚悟しなくてもよくなる面もあります。

Ⅲ、各企業は、次の消費税率引上げに向けてどうすべきか

それでは、事業者として次の消費税率引上げに向けてどう動けばよいのでしょうか? 平成31年10月に消費税率引上げ等が行われることを前提に、軽減税率やインボイス等の知識を収集するとともに、レジやシステムの入れ替えが必要な事業者であればシステム改修にも動いていくべきでしょう。 会計ソフトも軽減税率対応版でないと、適正な会計数字にならないため、会計ソフトの入れ替えも必要になってきます。 現時点では上記の各制度がどうなるかは不透明と言わざるを得ない状況です。 今後国会に提出されることになる消費税率の引上げ時期の再延期を規定した法案や、今後の税制改正等の動向を注視する必要があります。